■■■■落選俳句館2001■■■■
題名失念 ハードエッジ 角川俳句賞2001年【落選作】50句
立春の花のごとくに降る雪よ
春の雪水面にふれてにじみけり
うすら氷に散る花びらもなかりけり
むすぶともほころびるとも雛の口
なに一つ不自由なき身の朝寝かな
寒暖のだんだん暖の勢ひに
開け閉ても春の障子となりにけり
啓蟄や湯水のごとく光浴ぶ
蝋燭のごとくに太く椿蕊
ぱんぱんに春の空気を詰込んで
くつついて押合つてゐるしやぼん玉
春宵のために一番星の金
さびしさののどかにくれてゆく日かな
ふる雨もふく風も花咲かすため
櫻には貝の花びら海を恋ふ
砂浜や特急の名に富士・桜
波ひとつ打ちて流転の桜貝
花の雨まことに寒き雨なりけり
桜貝片割ればかり美しき
ここに来てわが家は留守や花ふぶき
老木の花にまみれてゐたりけり
音もなくすり抜けゆくや花ふぶき
花びらの散りぬる母を恋ひにけり
満月の風の中なる花篝
春の灯を消してまぶたを閉ぢにけり
春の灯も雨降る木々も眠るべし
プロペラのごとく呆けてチューリップ
ゆく春の袋にくたと紅生姜
初夏や漂白剤の香が好きで
きらきらと五月の雨を浴びにけり
火を焚いて人の見えざる植田かな
ひきがへるしづかに前へすすみけり
ほつぺたをふくらませたる薮蚊かな
手花火にナイフ入れれば火薬こぼれ
手花火の一途に銀をしたたらす
下校する子を真黒に夕焼かな
燃えて曲る燐寸の軸や曼珠沙華
さびしさに梨の頭をなでもして
一階に秋燈ともる二階にも
雨よりも風うとましき月夜かな
鉦叩真暗闇でありにけり
焼芋の皮投込みし焚火かな
十二月八日九日十日過ぎ
年越すや亀の両手の板のごと
高く飛ぶものはゆつくり初御空
双六のくやし涙といふことを
水仙の風に汚れてきたりけり
脱ぎし足袋ほの明るくて虚ろなる
探梅や海より深き空の色
きびきびと寒気の中に春を待つ