手のひらに水となりたる春の雪 からびたるかそけきものを種子袋 枝分れ枝分れして百千鳥 亀すいと花びらはくるくるとかな ゆらゆらとゆ舟の春となりにけり 万太郎忌の黄金色なる玉子焼 背がのびて花さきそめて胡瓜かな つつがなく裸となつてゐたりけり 潮風に育つて蝿の逞しき 空のみにあらずよ人も夕焼けて 山すその海のほとりの踊かな 下駄箱の上に鬼灯戸締りす きつね色の豊の秋とぞなりにけり 稲刈の今にも雨のふりさうな 鶏頭の頭切られてしまひけり 菊坂の日暮れは早し一葉忌 返り花幹にかくれてゐたりけり 霜除にきれいに霜のふることよ 馬鈴薯といふ土くれの形かな 踏みたれば水の音して落葉かな この池を枯れ尽したる蓮かな 山茶花と薄茶色なる皮衣 ほころびしものをつくろふ小春かな 暦売り東の方に帰るかな 年の瀬を映す小さなテレビかな お手玉の春着の柄でありにけり ふりだしに戻りしことも初笑 ゆきのふる夜となりけり雪うさぎ 白鍵と黒鍵三寒四温かな 吐く息のまう一息や春近し